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東京高等裁判所 平成3年(行コ)49号 判決

控訴人

伴一誠

被控訴人

原達人

右訴訟代理人弁護士

山下一雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は東京都に対し三九九万九四九〇円を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

控訴棄却

二  当事者の主張

当事者双方の主張は、控訴人の当審における主張を次のとおり付加するほかは、原判決「事実」の「第二 当事者の主張」記載のとおりであるから、これをここに引用する。

(控訴人)

第一次協定は、反対同盟によるゴミ焼却場建設阻止行動の結果、昭和四三年八月七日、東京都と北清掃工場付近住民との間に締結されたが、右付近住民の総数は六二一一名にのぼっている。このような協定締結の経緯及び当事者数の点から見ると、第一次協定は特定人との間の権利義務を定めた契約ではなく、多数の当事者に共通の権利義務を定めた合同行為と解すべきである。すなわち第一次協定は、右協定成立に関与した者にのみ効力を及ぼす契約ではなく、右協定成立以後の北清掃工場付近住民全体に効力を及ぼす実質的な法定立行為である。それゆえ第一次協定三条は、北清掃工場の付近住民一般に、旧国鉄変電所跡地を原則として緑地として利用する権利を認めたものであり、第一次協定に違反する本件契約は違法であり無効である。なお第一次協定三条が旧国鉄変電所跡地を原則として緑地とすることとしたのは、右協定成立当時の北清掃工場の敷地が店舗住宅の密集地にあって、しかも既設のゴミ焼却場に比べて三分の一程度に狭小であったからである。

三 証拠〈省略〉

理由

一当裁判所も、控訴人の東京都に代位した本件損害賠償請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決「理由」記載のとおりであるから、これをここに引用する。

1  控訴人は第一次協定は契約ではなく、多数の当事者に共通の権利義務を定めた合同行為であると主張する。

しかしながら合同行為とは、数人が共通の権利義務の変動を目的として共同してする法律行為であり、意思表示の向けられる方向が同じである点で、相対立する意思表示から成り立つ契約とは異なると観念されている。これを本件についてみるに、〈書証番号略〉によると、第一次協定は、六〇〇〇名を超す原告が建設大臣を被告として提訴した、東京地方裁判所昭和四一年(行ウ)第七八号ゴミ焼却事業及びその執行年度割の変更決定取消請求事件における、裁判所からの和解勧告を契機として、右原告らと実際にゴミ焼却場を設置する東京都との間に昭和四三年八月七日裁判外で締結された、いわゆる公害防止協定であり、右協定書一条二項は「北清掃工場の付近住民は、東京都が本協定書の各条項を厳守することを条件に北清掃工場の操業を認める。」と規定していて、ゴミ焼却場建設に反対する付近住民と、その建設を促進する東京都との間の相対立する意思表示から成り立つ公法上の契約であることが明らかであり、合同行為と解することはできない。右協定の一方当事者である北清掃工場付近住民の総数が六〇〇〇名を超すことは認められるが、そのことにより右協定の性質が契約ではなく、合同行為となるものではない。

2  なお控訴人は、第一次協定を締結したゴミ焼場設置反対期成同盟と、平成元年九月二〇日に東京都と「北清掃工場の建替に伴う地元還元公共施設建設に係わる設計の作成に関する協定」(本件協定)を締結した志茂反対同盟とは別個の組織であり、本件協定締結により、第一次協定の内容は変更されないと主張する。

しかしながら〈書証番号略〉、並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

東京都は昭和五八年八月の運営協議会で、北清掃工場の全面的な建直し拡張計画を発表した。そのため、従前のゴミ焼場設置反対期成同盟の有志が中心となって、都側と交渉する組織体として同年一〇月志茂反対同盟が結成され、右同盟は、東京都が取得していた変電所跡地の暫定利用に関する確認書を、都と取り交わした。その後、志茂反対同盟は変電所跡地に還元施設を建設する方針を決定したので、右方針に反対する控訴人は昭和六二年三月八日志茂反対同盟を脱退した。昭和六三年一〇月に開催された運営協議会で、変電所跡地に還元施設を建設することが決定し、同月二五日付で志茂反対同盟が、都知事に対し、変電所跡地に還元施設の建設を求める内容の要望書を提出した。平成元年九月二〇日東京都は志茂反対同盟との間に、北清掃工場近隣住民の右還元施設に関する意向調査及び同施設基本設計の作成義務を、都が反対同盟の推薦する業者に業務委託し、これに必要な経費として右業者に対し四〇〇万円を限度として支払う旨の本件協定を締結し、右協定に基づき、東京都清掃局長である被控訴人は同年九月二九日生活建築研究所こと山本厚生との間に、調査設計業務委託契約(本件契約)を締結して、平成二年一月、都は山本厚生へ右委託料三九九万九四九〇円を支払った。

右の事実によると、本件協定を締結した志茂反対同盟は、第一次協定を締結したゴミ焼場設置反対期成同盟とは同一の組織ではないが、右同盟を事実上承継していて、地域住民の意向を代表する組織であること、及び第一次協定と本件協定との間には二一年が経過しているが、いずれも地域住民の意向に基づき締結されたものであることが認められる。さらに、第一次協定三条は、変電所跡地につき原則として緑地とすると規定しているに過ぎず、将来にわたり緑地として維持する法律上の債務を都に負担させたものではない。これらによると、第一次協定の内容は本件協定締結により適法に変更されたものと判断でき、東京都の本件委託料支払につき、何ら違法な点は認められない。

したがって、控訴人の本件損害賠償請求はいずれも理由がない。

二以上のとおりであって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤井正雄 裁判官大藤敏 裁判官水谷正俊)

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